不法行為の準拠法

不法行為の準拠法
不法行為
成立要件
不法行為の効果<
損害賠償
責任能力
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不法行為の準拠法

不法行為の準拠法
不法行為の準拠法(ふほうこういのじゅんきょほう)とは、渉外的要素を持つ不法行為の成立及び効果に適用される法域の法のことをいう。
渉外的私法関係については、法廷地法ではなく当該法律関係に最も密接な関係を有する地の法を準拠法としなければならないという国際私法のルールは、不法行為の場合でも同様である。
その結果、最密接地としてどの法域の法を適用するかによって、損害賠償義務の有無や範囲等が変わることになる。
 
不法行為地法の原則
原則
不法行為の準拠法について、立法例として最も受け入れられている考え方は、原因たる事実の発生した地の法、すなわち不法行為地法を適用するという考え方である。
その根拠としては、被害者の侵害された利益の救済の問題は、不法行為の行われた地の公益に関係すること、不法行為地以外の法域の法を適用すると損害賠償責任の有無や範囲について予測することが困難になること等があげられる。


法廷地法による修正
法廷地法による修正
もっとも、古くは民事責任と刑事責任が区別されていなかった時代があったことや、不法行為の成立及び効果は法廷地の公序にもかかわりを持つことなどから、不法行為地において不法行為責任が認められても、法廷地法によっても不法行為責任が認められなければならないとする立法例も存在する。
例えば、イギリスにおいては、コモン・ロー上の原則として、外国で行われた不法行為に関し、イギリスの裁判所で不法行為に基づく請求が認められるためには、不法行為地法によってもイギリス法によっても請求可能でなければならないとする double actionablity ルールが存在していた(ただし、1995年の不法行為の準拠法に関する制定法の成立により、名誉毀損に関する請求を除いて double actionablity ルールは廃止)。
また、ハンガリーや中華人民共和国の国際私法にも、同様のルールが存在する。
 
隔地的不法行為
不法行為地法を準拠法とした場合に生じる困難な問題は、不法行為の要件の成立が複数の法域にまたがっている場合に、いずれの地の法を準拠法にするかという点にある。
例えば、加害者がA国内で被害者に毒入りの食品を食べさせ、その後被害者がB国内で中毒症状を起こし、C国で死亡した場合(直列型)、A国内で名誉毀損行為が行われたが、その情報が国外の複数の国(B国、C国)にも拡散した場合(並列型)などについて、どの地が不法行為地となるかという問題が生じる。
この点については、加害者の行動地の法を準拠法にすべきとする考え方(行動地説)、現実に損害が発生した地の法を準拠法にすべきとする考え方(結果発生地説)、過失責任の場合は行動地の法が準拠法になるが無過失責任の場合は損害が発生した地の法が準拠法になるとする考え方(二分論)などが存在する。
立法例としても、隔地的不法行為の場合を考慮した規定を置いている場合があり(イギリス、ドイツ、イタリア、スイスなど)、行動地法か結果発生地法かを被害者が選択することを可能とする例も存在する(ドイツ、イタリア)。


不法行為地主義に対する修正、批判
不法行為地主義に対する修正、批判
以上のように、不法行為の準拠法については、不法行為地法を適用するのが世界的に見られる傾向である。
しかし、いつも不法行為地が問題となる法律関係に最も密接な地と言えるかについては批判もあり、そのような考え方に基づく立法例や判例も存在する。
 
共通属人法の考慮
まず、被害者と加害者の共通属人法を考慮する立場がある。
伝統的な国際私法の考え方では、属人法の範囲は「人の身分及び能力に関する法」とされていたが、それを不法行為にも拡張するものである。
ドイツにおいては、1942年12月7日の命令において、外国におけるドイツ人間の不法行為については、不法行為地法を準拠法とせず、ドイツ法を準拠法とする例外が認められた。
これは、戦争中に占領地でドイツ人間の車両事故が多発していたことによる不都合を解消する目的で出された命令であるが、判例によって、共通国籍の外国人間の不法行為についても当事者の共通本国法が準拠法になる旨、類推解釈されるに至った(その後の立法により、共通常居所を考慮する立場に移行)。
その他にも、共通属人法を考慮する例が存在するが、国籍、住所、常居所のどれを考慮するかについては、立法例が分かれる(共通住所地を考慮する例としてハンガリー、共通常居所地を考慮する例としてスイス、共通本国でかつ共通住所地を考慮する例としてイタリア)。
 
不法行為の類型化
不法行為一般について不法行為地法を準拠法にするのではなく、不法行為の類型に応じた最密接地の法を準拠法にすべきとの考え方も存在する。
例えば、スイスにおいては、道路交通事故、製造物責任、不正競争、競争制限、不動産に起因する有害物質等の進入、人格権侵害に類型を分けて、不法行為の準拠法の特則が規定されている。
また、ハーグ国際私法会議においても、不法行為一般について画一的に準拠法を規定するとする立場を採用せず、1971年の道路交通事故の準拠法に関する条約や1973年の製造物責任の準拠法に関する条約が採択されている。
   

アメリカの抵触法革命
アメリカの抵触法革命
最密接地としてどの地が相応しいかについて異なる結論が導かれるとしても、以上の考え方は、いずれも基本的にサヴィニー以来の国際私法に対する考え方(法律関係本拠地説)を基調としている。
これに対し、アメリカ合衆国においては、特に第二次世界大戦後になってから、国際私法の役割は複数の法域が目指している法政策を調整することにあり、統治利益が最も大きい法域の法を適用すべきとする考え方(いわゆるアメリカ抵触法革命)が有力に主張され、その議論に影響を受けた判例が現れた (Babcock v. Jackson事件)。
この事件は、ニューヨーク州の住民である運転者が、同州の住民である者を好意で同乗させ、カナダのオンタリオ州で交通事故を起こしたため同乗者に怪我をさせ、損害賠償請求を受けた事案である。
伝統的な不法行為地法主義によれば、オンタリオ州法に従って損害賠償義務の有無や範囲が決まることになるところ、オンタリオ州法では、運転者の好意同乗者に対する損害賠償義務は免責されることになっていた。
このような事案につき、ニューヨーク州最高裁判所は、オンタリオ州法を適用することの統治利益は、ニューヨーク州法を適用することの統治利益に比べて極めて小さいものであるとして、オンタリオ州法による損害賠償義務の免責を認めず、ニューヨーク州法に従って損害賠償義務を認めた。
なお、米国抵触法第2リステートメントにおいては、不法行為の準拠法につき、その争点につき事実及び当事者と最も重要な関係を有する国の法によるとされている。
 
当事者による法の選択
不法行為の規律は公益的な側面が強いものの、不法行為によりいったん発生した債権は通常は金銭債権であることが多い。
また、実質法(民法、商法)においては金銭債権については当事者による処分が認められていることなどから、準拠法の選択についても当事者自治を認めるのが妥当とも考えられる。
このような考慮から、不法行為の準拠法について、準拠法の選択の合意を認める立法例も存在する。
あらゆる国の法を選択可とする例としては、ドイツ、オーストリア、オランダがあり、法廷地法のみを選択可とする例としては、スイス、大韓民国がある。

逆援助
日本における不法行為の準拠法
以下は、日本が法廷地になった場合の不法行為の準拠法に関する扱いである。
 
不法行為地法の意義
日本では、2007年1月1日から施行された法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号、以下「通則法」という)によって全面改正される前の法例(明治31年法律第10号)において、原則として「原因タル事実ノ発生シタル地」が不法行為の成立及び効力の準拠法になるのを原則としつつ(法例11条1項)、日本国外で発生した事実が日本法によれば不法ではない場合には、当該不法行為地法を適用しないとともに(同条2項)、日本国外で発生した事実が日本法によっても不法な場合であっても、日本法が認めた損害賠償その他の処分しか請求できない(同条3項)ものとしていた。
通則法においても、不法行為地法と法廷地法を併用する立場は貫かれているが、解釈上分かれていた点の明確化や準拠法の選択の柔軟化がされている。
まず、隔地的不法行為における不法行為地の意義に関して解釈が分かれていた点について、被害者保護の観点から「加害行為の結果が発生した地」と規定することにより、結果発生地説を採用することを明確にした(通則法17条本文)。
ただし、これを貫くと、通常は想定されない地で加害行為の結果が発生した場合に、加害者にとって予見できない事態が生じる場合もある。
そのため、「その地における結果の発生が通常予見することのできない」場合には、例外的に加害行為が行われた地の法を適用するものとしている(同条但書)。
 
個別類型
法例においては、解釈上はともかく、明文上は不法行為の類型に応じた個別的な規律はされていなかった。
これに対し通則法では、不法行為の類型に応じて最密接地を選択すべきであるとする近時の考え方を考慮し、生産物責任と名誉・信用毀損の準拠法について、特例を設けた。
逆援助にも適用するのかしないのか?


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